世界各国から集まった若い音楽家たちと、地元・広響のメンバーによって、この広島・長崎「平和巡礼」1回限りのために結成されたワールドユースオーケストラを、佐渡裕さんが指揮。このコンサートの原点は、20年前にバーンスタインが広島で行った「平和コンサート」にあり、バーンスタインの最後の愛弟子であった佐渡さんにとって、今回のコンサートはやはり大変思い入れがあるようでした。
そ して、「世界平和を訴えたい」という共通の思いのもとに集まったソリストや俳優の方々――ミーシャ・マイスキーさん、五嶋龍さん、佐藤しのぶさん、佐野成 宏さん、キュウ・ウォン・ハンさん、槙原敬之さん、吉永小百合さん、平幹二郎さん――とともに、素晴らしい音楽を作り上げていきました。
リ ハーサルから全部聴かせていただき、若い外国の演奏家たちが、初めて日本にやって来て、「ヒロシマ」を体験することで、徐々に変化していくのがとても印象 的でした。それから素晴らしかったのが、広島市民の合唱。バーンスタインの「カディッシュ」などの難曲も完璧にこなし、また<川よとわに美しく>といった 広島にしか歌えない歌、これはほんとうに「思い」が伝わってきて、聴くたびに目頭が熱くなるほどでした。
コンサート当日の朝は、5時半に起きて平和記念公園へ。8時から行われる式典の席を確保するためです。2時間以上座ったまま待ち、やっと式典が始まりました。屋根のない席、8時台でも広島の太陽は容赦ありません。もう暑さで倒れそう、本当に意識を失うかと思いましたが、「あの日」はこんなものではなかったのだ、こんなことくらい我慢しなくてどうするんだ・・という気持ちで、耐えていました。
夜のコンサートは、少々雨もぱらつきましたが、感動的なものでした。総勢200人 近い演奏家、歌い手がステ-ジでひとつとなり、佐渡さんの入魂の棒のもと一期一会の音楽をつくっていきます。<川よとわに美しく>の演奏前、被爆された合 唱団メンバーの一人がお話されました。「あの朝、自分は親友と立ち話をしていた。一瞬の閃光、ものすごい爆発音。そして意識を失った。気がつくと、まわり は地獄絵図と化していた。人々は丸裸に真っ赤な皮膚をたらし髪を逆立てて、幽霊のような姿。さっきまで話していた親友は、目の前で亡くなっていた。が、自 分には服が残っている。皮膚もある・・・それは、爆発の瞬間、自分が親友の陰にいたためだった。今夜は、友のために歌います――」
結 局、自分ひとり何をしても無力ではないか・・・と思ってしまいがちな現在の世界情勢ですが、たったひとりの行動が大きな波になることもあります。夢物語か もしれませんが、「音楽には力がある」と、あの場にいた全ての人が確信したと思います。音楽は楽しい。でももっと、何か・・・それを追い求めていきたいと 強く感じさせてくれた、広島の日々でした。
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