月曜日, 1月 16, 2006

音の臨書

寒い寒い雪空の13日、首をモヘアのマフラーでぐるぐる巻きにして、原宿へ。古屋知子さんのひとり語り・新春ライヴが目的です。演目は、近松門左衛門世話浄瑠璃<心中宵庚申>。琵琶の弾き語りも素晴らしいという古屋さんですが、絃に乗せず「音と呼吸から近松を読み解く」“音の臨書”に長年取り組んでいらっしゃるとのこと。近松の心中物は歌舞伎、文楽、舞台といろいろ接してきたけれど、「語り」は初めて。演出は観世榮夫さん、そして折りしも先日のTV番組「その時、歴史が動いた」で近松門左衛門が取り上げられていたこともあり、期待も高まり開演を待ちます。

この<心中宵庚申>は近松70歳、最後の世話浄瑠璃作品で、実際の心中事件をもとに創作された素晴らしいドラマ。語りが始まるや否やその世界にひき込まれ、情景が次々と浮かんで物語が進んでいきます。また、言葉・フレーズが非常にリズミカルで、これは近松が意識して作り出したものなのか、とにかく小気味良い。“お金の問題”とか“許されない恋”とかいった単純な理由(といってしまうのも失礼ですが)の心中ではなく、養子問題、親子の義理、嫉妬、夫婦愛など複雑に絡み、にっちもさっちもいかなくなるというお話なのですが、この状況で何故に「にっちもさっちも・・・」となってしまうのかというポイントが実に日本的、もしかしたらアジア的。義理や人情よりも“個人の自由”が第一の現代の若者からしたら、一言「はぁ~?」かもしれませんねぇ。

古屋さんの素晴らしい語りに導かれてそれぞれの人物に感情移入してしまい、鼻がつんとして目頭熱くなること数回。男性主人公は八百屋の息子(養子)ということで、クライマックスでの会話に種々の野菜の名前が隠されている、という遊び心はいと憎し。毛氈を敷き心中にいたるまでの場面は臨場感あり・・・。1時間半はあっという間に過ぎ、満足して地上に出たのでした。世の中には、素晴らしい人がたくさんいらっしゃるなぁ。限られた一生のうちでは、そのなかのほんのひと握りの方にしかお会いできないのだろうけれど・・・だからこそどんどん外に出て行くべし、出会ってみるべしと思っているのであります。

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